アゴが小さくなった原因
子供の歯並びや噛み合わせが急速に悪くなってきた大きな原因の一つとして、アゴの骨の成長が悪くなってきたことがあります。
あとで詳しく説明しますが、永久歯が生えてくるときに、アゴの奥行きが十分に成長していないと、窮屈で歯がまっすぐに生えてこないということが、歯並びや噛み合わせが悪くなる一番の原因となっています。
それでは、なぜアゴの骨の成長が悪くなり、小さなアゴの子供が増えてきたのでしょうか?
その理由としては、なんといっても食生活の変化が考えられます。
昔の穀物や野菜(とくに根菜)、小魚などが中心となっていた食事では、硬くて飲み込むまでに何度も噛まなくてはいけませんでした。
そのため、子供のころから噛む動作がしっかりと行なわれ、アゴの骨も丈夫に成長していました。
しかし、戦後だんだんと日本の食生活も欧米型に近づいていき、子供の食事も軟らかく調理されてあまり噛まなくても飲み込めるものが増えてきました。
スパゲティー、ハンバーグ、カレーライス、こういった子供が好きな食べ物は、栄養価も高いし、おいしく食べられるという面では良いのですが、
噛む動作によってアゴの成長を促進する働きにとってはあまり良いとは言えないのです。
ある調査によると、弥生時代では、平均的な食事の場合、一日に4000回ほど噛んでいたのが、
現在の平均的な食事では一日に700回と約6分の1ほどに噛む回数が減ってきているということです。
また、わたくしたちぐらいの世代では食事のときに、
「よく噛んで食べなさい」
というしつけを受けた経験をもっている人が多いのですが、最近ではこういう家庭での指導も減ってきているようです。
毎日行なわれる、何百回、何千回という噛む動作は、関節や筋肉の発達にとってとても重要なことなのです。
例えば、脚を骨折してギプスをして動かさないままでいると、健康な脚に比べて骨や筋肉はやせてほっそりしてきます。
それが成長期であれば、健康な状態とあまり動かすことができない状態とでは、骨や筋肉が発達する度合いは、非常に大きく違ってきます。
アゴの成長と噛む動作の関連もこれと同じことです。
スポーツ選手が一週間も練習を休めば、身体が思うように動かなくなってくるのと同じょうに、噛む動作が少なくなればアゴも退化してくるのです。
こうした食生活の原因とともに、乳幼児期の習慣の変化もアゴの発達に影響があると考えられます。
それは、粉ミルクを哺乳びんで飲む赤ちゃんが増えたことと、離乳時期が早くなったことが関係しています。
母乳を飲むためには、アゴをしっかりと動かさないと飲めないので、自然とアゴが発達します。
しかし、最近では母乳を与えるより噛乳びんで粉ミルクを与えるお母さんが増えてきているので、赤ちゃんはあまりアゴを動かさないでもミルクを飲むことができるようになりました。
また、欧米式の育児法が日本に入ってきた影響で離乳の時期が以前より早くなる傾向があって、乳幼児の段階からアゴの発達は悪くなってきているのです。
その一方で、先天的な原因、つまり遺伝が原因になってアゴの骨が小さくなってきているという考え方もあります。
例として出されるのが、「ハブスブルグ家のアゴ」です。
これは、ハブスブルグ家というオーストリアの王家の人たちのアゴの特徴が似ていることから、考えられた説です。
王家の歴代の肖像画のなかで、アゴが突き出た「受け口」の人が多いという傾向から、「受け口」が遺伝によって起こるとされている推論なのです。
歯科医のなかには、噛み合わせやアゴの骨の形状は、この例のような遺伝的な要因が大きく左右すると考えている人もいます。
しかし、この王家の人たちは、似た環境のなかで同じような食習慣を共有していたという考え方もできます。
王家ですから代々同じようなアゴの成長になったとも言えるのです。
もちろん、遺伝的な原因はまったく無視することはできません。
わたくしも、アゴの形状にある程度の遺伝的な要因がないと考えているわけではないのです。
しかし、最近になって急激にアゴが華馨な子供が増えてきている事実は、遺伝的な原因からだけでは説明できません。
こうした急激な変化は、わたくしたちの食生活を中心とする後天的な原因によるものだ、と説明する方が理にかなっている、のではないでしょうか。
ですから、小学生になる前の子供をもつ保護者の方には、歯やアゴの健康のために、食事にも少し注意をはらっていただくことをお勧めします。
小魚や根菜類などのよく噛む必要がある食べ物もメニューに入れて、しっかりと噛む作業の大切さを教えてあげることです。
しかし、その前に大切なことがあります。
それは、今の時点で子供の噛み合わせがきちんとしているかどうかを一度診断することです。
もし、すでに噛み合わせが上手くいっていない状態だと、噛めば噛むほど歯やアゴの骨に負担がかかり、アゴの関節まで傷めてしまうことになります。
「出っ歯」や「受け口」、「八重歯」や「乱ぐい歯」といったひと目でわかる症状の場合、ほとんどがアゴ関節は不自然な動きを強いられています。
ひどい場合は、アゴを動かすとガクッと音がしたり、口を大きく開けなくなったりしてしまいます。
自覚症状が少ない場合でも、アゴ関節の歪みが、首や顔の各部に影響したり、ストレスとなってさまざまな病気の引き金になることもあるのです。
アゴ関節の歪みを予防する意味でも、子供のうちに矯正歯科の診察を受けることは大切になってくるのです。
小学生の間では将来の予防のために、また中高生は症状がひどくならないうちに健康な状態にするために、一度矯正歯科の診断を受けることをお勧めします。
もちろん、30代・40代・50代と歯があればいくつになっても矯正治療はできるのですが、
歯並びや噛み合わせを治すのは、十代(とくに小学校高学年〜中学生)のうちがもっとも効果的です。
歯や骨格が成長をしている途中なので、より理想的な治療が可能になります。
また、噛み合わせが悪かったり、アゴ関節がずれている期間が短いほど、治療の期間も短くて済みます。
それに、歯や歯ぐき、アゴ関節などは、傷みが進まないうちに治療しておかないと、元に戻りにくくなったり、治療が難しい状態になったりしてしまいます。
では、矯正歯科を選ぶときに、どういう基準で選べば良いのでしょうか?
矯正歯科を選ぶ基準としては、
「治療前に十分な診断や検査をしているか」
「必要以上に歯を抜くことを勧めていないか」
「噛み合わせとともにアゴ関節の働きまできちんと考えて診察しているか」、
という点はとても重要です。
また、「矯正歯科の専門医であるか」なども参考になります。
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