歯周病は「骨」をむしばむ
歯周病がさらに深く進むと、歯肉はまるで潰瘍を起こしたようにジュクジュクになっていきます。
潰瘍とは、からだをおおう粘膜が破壊されて、内部が露出した無防備な状態です。
この状態になると、歯肉炎から本格的な歯周病へと進行しているといえます。
「歯周ポケット」という言葉を耳にしたことはないでしょうか?
歯肉は粘膜組織で、表面は上皮細胞におおわれています。
歯肉と歯をくっつけているのは、「接合上皮」という特殊な細胞の集まりです。
この細胞は粘着性のある半接着斑という特殊なタンパクをもち、それが「ノリ」の役目をはたし、ペタリと歯にくっついています。
ところが、歯周病菌による炎症が起こると、そこからある種の酵素が出てきます。
この酵素によって、粘着性のあるタンパクが分解されてしまいます。
すると、歯にくっついていた上皮が剥がれ、隙間ができてしまうのです。
その隙間が「歯周ポケット」と呼ばれるものです。
歯周ポケットは、歯周病菌にとって理想郷ともいえる場所です。
歯周病菌が増殖するのに必要とする生活条件は、栄養と水分があって、適度に温かくて、酸素がないこと(嫌気性)です。
口の中は生温かくて、歯周ポケットにはたえず食べ物のカスが入り込みます。
さらに、歯周ポケットは、奥にいくほど酸素が減ってきます。
歯周ポケットが深くなればなるほど、酸素を必要とする虫歯菌や善玉に近い菌がしだいに減少し、歯周病菌の独壇場となるのです。
そこに歯周病菌が増殖すると、からだは異物の侵入を防ぐため、白血球で応戦します。
歯周病菌と白血球が激しくやりあうことで、歯肉に炎症が起こります。
歯周病菌の勢力がまさると、いよいよ歯を支えている歯槽骨という骨組織にまでその被害がおよんできます。
そもそも骨は無機質のかたまりではなく、新陳代謝を繰り返し、つねに生まれ変わる組織です。
骨の内部では、骨を生み出す骨芽細胞と、骨を壊す破骨細胞が活動しています。
破骨細胞が骨を壊しては、骨芽細胞が骨を補修していくことを繰り返しながら、骨密度はつねに一定に保たれるようにできています。
からだがもつ、バランスを保とうとする妙なる力、これをホメオスターシス(恒常性)といいます。
ところが、歯周病になると破骨細胞が異常に増殖して、本来もっていたホメオスターシスがくずれてしまうのです。
そのメカニズムは解明されていない部分もありますが、現在いわれているのは、歯周病菌からからだを守る白血球の一つ、マクロファージの存在です。
「幹細胞」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
幹細胞とは、あらゆる細胞組織のおおもととなる細胞です(多能性幹細胞)。
神経細胞、血球、内臓、皮膚などに分化しうる細胞で、現在、再生医療など最先端の医療で注目されています。
マクロファージも、破骨細胞も、元は同じ多能性幹細胞からできているのです。
ところが、歯周病の進行過程で、これらの細胞に異常な刺激が続くと、マクロファージとなるべき細胞が誤って破骨細胞に大量に分化してしまい、
その結果、破骨細胞が過剰に産出されてしまうと考えられています。
破骨細胞の過剰な増殖によって歯槽骨の破壊ペースが速まると、歯槽骨はスカスカの線維組織になってしまいます。
こうして歯の土台となる、歯槽骨が失われていくのです。
人のからだは組織にぽっかりと穴ができると、その隙間を埋めようとする働きが起こります。
スカスカになった歯槽骨には未成熟な線維組織(不良肉芽)がつくられ、そこには体液成分や老廃物、細胞の死骸がたまり、ひどくなると膿が出てきます。
昔は歯周病のことを歯槽膿漏といいましたが、それは歯肉から膿が出る現象を示しています。
その臭気は膿漏臭といわれ、歯磨きやマウスウォッシュなどではとうてい隠しきれない強烈な臭さで、人に強い不快感を与えます。
このような状態になったら、歯周病がかなり深刻化しているといえます。
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