歯肉の色
自分の歯肉の健康状態を知るのに、わかりやすいのが「歯肉の色」です。
歯肉の色は顔色と同じです。
顔色が体調を知る所見の第一歩となるように、歯肉の健康は、歯肉の色に如実にあらわれます。
歯肉内部には、毛細血管がたくさん集まっています。
この毛細血管は、歯や歯周組織に酸素や栄養を届け、老廃物を運び出すライフラインです。
健康な歯肉ならば、新鮮な赤い血液がスムーズに運行し、粘膜を通して薄ピンク色にみえます。
ここに緊急事態が起こるのは、有害な歯周病菌が歯肉に侵入したときです。
からだは異常を感知すると、毛細血管を自動的に拡張させて歯肉に大量の血液を送り込みます。
体内に侵入しようとしている敵を排除するために、血液成分の軍団が必要だからです。
その軍団とは、マクロファージや好中球といった白血球のグループです。
歯周病菌の侵入現場では、血管がわずかに開いて、そこから好中球やマクロファージが外に出てきます。
これが異物(非自己)を排する自己防衛のはじまりです。
この働きは、生まれつきそなわっている機能なので「自然免疫」と呼ばれています。
最初に出ていくのは、好中球で、とにかくがむしゃらに敵を食べる免疫細胞です。
次に続くマクロファージよりずっと数が多く、異物をひたすら食べつづけることで、からだを守ってくれます。
続いて登場するマクロファージも、異物を発見するとモグモグと食べてしまう大飯食らいの細胞です。
しかし、マクロファージの真の目的は別にあります。
マクロファージは敵を食べることで、敵の弱点や特徴を分析して、その情報を免疫をつかさどる胸腺細胞(T細胞)に伝えるのです。
マクロファージから「敵侵入」の報告を受けたT細胞は、敵に対抗しうる抗体をつくりはじめます。
このように抗体をつくる一連の働きは、その時々の環境や状況に応じた免疫力をみずから生み出していくことなので、「獲得免疫」と呼ばれます。
マクロファージや好中球がこうした戦いを繰り広げているときは、歯肉に血液成分が大量に送り込まれています。
このため、歯肉炎といわれる炎症状態になり、歯肉は赤みをおびてみえます。
いずれ抗体が完成して、次からくる歯周病菌をどんどんやっつけてくれれば、炎症は治まり一件落着といいたいところですが、じつは、そうすんなりと簡単にはすまされない事情があります。
マクロファージは有毒な歯周病菌を食べ尽してくれる婁な免疫細胞ですが、これまでにも述べたように、歯周病の炎症という刺激によって骨を破壊する細胞に変貌してしまう細胞でもあるのです。
さらに、マクロファージや好中球が戦うたびに、大量の活性酸素が生まれます。
つまり、マクロファージは、歯周病菌をやっつける代わりに歯槽骨や歯肉細胞も破壊してしまう、諸刃の剣でもあるのです。
だから、ちょっとでも赤くなった時点で、歯を清潔にする、からだの免疫力を高めるなどの対策をとって早急に炎症を抑えなければなりません。
歯周病菌との戦いが長引くほど、歯肉は焦土となり、歯槽骨のスカスカ化が進み、敵味方問わず死骸が累々と積み重なります。
このとき、歯肉は紫色に変わっています。
歯槽骨がスカスカになったぶん、そこに死骸や老廃物、体液成分などからなる膿がたまっているためで、見た目もブヨブヨとしてきます。
歯肉を触ってみてください。
硬い骨に当たるような感触があるなら、歯槽骨がしっかりとしている証拠。
歯槽骨がスカスカになった歯肉は、触ると硬い骨が感じられず、たよりない感触で、水分を含んだスポンジのように水っぽくなっています。
歯周病はあきらかな自覚症状がなく、自分が気づかぬうちに進行して突然、出血や膿などの症状が出てくる病気と思われがちですが、
毎日の歯磨きのときにでも、歯肉をニュッと出して、色を見て、指で触ってみれば、自分でもその健康状態がチェックできます。
薄いピンク色をしているならば、健康。赤みをおびているように感じたら、しっかり歯磨きをして2〜3日ようすをみましょう。
炎症が起きていること自体は免疫機能が正常に働いている証拠なので、口の中を清潔にし、栄養と睡眠をよくとることで、元のピンク色に回復することもあります。
しかし、赤みが長引くようだったら、歯科医へ行って診察を受けましょう。
また、紫色ならば、早急に手を打たねばなりません。
歯槽骨は一度減ったら、元に戻らない組織だからです。
先送りにすればするほど、自分のからだを痛めつけることになります。
炎症が軽度であれば、先の尖った特殊な器具でプラークや歯石を削りとるスケーリングという治療をおこなうことで、歯肉は回復します。
噛み合わせなどが原因で歯周病を悪化させている場合は、歯を削るなどして噛み合わせを調整します。
炎症が進んでいる場合は、歯肉内部の根面付着物を取り除く作業がおこなわれます。
根面付着物とは、歯根にとりついたプラークや歯石が頑固にこびりついた状態で、ちょっとやそっとではとれません。
麻酔をかけてスケーラーという特殊な器具を歯と歯肉の間に挿入し、削りとります。
これをルート・プレーニングといいます。
さらに歯周病が悪化している場合は、歯肉を開いて歯槽骨にたまった歯石や不良肉芽をとるなど外科的治療がおこなわれます。
歯周病になったとき、その治療にかかる時間は、症状や人によってちがいます。
軽いうちなら3回程度の通院ですむこともありますし、重い症状ならば何度も通ってもらい、長い時間をかけて治療を進めることもあります。
虫歯治療なら、患者さんはただ診療台に座って目をつぶって、歯科医に身を任せておけば治ります。
一方、歯周病治療の場合、「歯科医が半分、自己ケアが半分」なのです。
正しいデンタルケアと健康管理、そして治療、この3つがそろってはじめて完治します。
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